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班忠義監督作品「ガイサンシーとその姉妹たち」

監督から

1992年、東京のある集会で日中戦争当時旧日本軍から性暴力を受けたという中国人女性の証言と身体に残された傷跡に、私は衝撃を受けた。日本人残留婦人との出会いから戦争問題に関心を持ってきた私は、95年国会での 「不戦決議」の戦争認識に危機感を持ち、日中戦争の事実を知るため山西省の黄土高原に広がる貧しい農村に足を踏み入れた。しかし私の会いたかった「蓋山西 (ガイサ ンシー)」と呼ばれた女性はすでに自ら命を絶ってこの世を去っていた。

それから10年、毎年山西省を訪れ、蓋山西と同じように性暴力を受けた女性達と関わっていく過程で、当時の体験を思い出す恐怖でときに体を震わせながら彼女達は一生懸命カメラを通して私に訴えはじめた。戦後も半世紀以上差別や貧困、病気、恐怖のために明らかに出来なかった自らの過去に彼女達ははじめて向き合い、怒り、悲しみ、悔しさを語った。その後取材を通して出会った元日本兵は、加害の事実に、ある方は淡々とある方は悔悟の涙を流して向き合ってくれた。

戦争体験を伝えること、国を越えてそれを共有することは戦後60年も過ぎて難しいことだ。しかしだからこそ二度と悲惨な戦争を繰り返さないために想像力を持ってお互いに歴史に向き合う、平和を守ろうとする人達とその共同作業を一緒にしていくのが20年近く日中を行き来してきた私に出来る事だと思っている。

班忠義監督プロフィール

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班忠義(バン・チュンイ)
1958年中国・遼寧省撫順市出身。

上智大学大学院、東京大学大学院研究生を経る。
中国残留婦人問題に取り組み、92年「曽おばさんの海」(朝日新聞社)を出版、第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞を受賞する。95年「中国人元“慰安婦”を支援する会」を発足。98年「雲南の子供たちの教育を支援する会」発足。99年、ドキュメンタリー映画『チョンおばさんのクニ』(シグロ製作)を初監督。06年9月「ガイサンシー《蓋山西》とその姉妹たち」(梨の木舎)出版。


シグロ
2007
80分
長編ドキュメンタリー
ビデオ
カラー
 
制作: 山上徹二郎、班忠義
編集: 甘文輝、
ジャン・ユンカーマン
音楽演奏:盂県民間楽隊