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チョムスキー9.11 image
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「ノーム・チョムスキー イラク後の世界を語る」全文紹介
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Q まず前回14ヶ月前のインタビューのお礼を申し上げます。インタビューは映画「チョムスキー9.11」として、多くの人々に世界情勢について、より深く、そして展望と関心をもって考える機会を与えました。日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、そしてヨーロッパも含めた観客動員数は10万人に達していると見込まれます。映画完成から1年経った今も満員立ち見が出るほどの状況です。映画が我々の洞察力を大いに深め、また様々な行動の契機となったことに我々一同感謝したいと思います。

今日のインタビューは、東京で計画されている二千人を集めた大きなイベントへ向けて企画しました。「チョムスキーの映画を見て今何ができるのか考えよう」というイベントで大劇場を会場に予定しています。それというのもこの映画を通して人々が物事に関心を寄せるようになっただけでなく、この映画がイベントのタイトルどおり今何ができるのかを人々に考させてくれたからです。

14ヶ月前にお話したときから随分いろいろなことがありました。中でもアメリカのイラク侵攻でしょうか。この侵攻は時代を塗り替えるような出来事だったと感じていらっしゃいますか。
A イラク侵攻は実はもっと大きな世界の動きの一部にすぎません。14ヶ月前にお話したときにはあまりふれませんでした。というのも、イラクがアメリカにとって差し迫った脅威であるというアメリカ政府とメディアの宣伝攻勢が始まったのは去年の9月、私達がお会いした数ヶ月後でしたからね。この宣伝攻勢は別の2つの重要な出来事と時を同じくしていました。

まず一つに、9月17日に国家安全保障戦略が発表されたこと。前例が全くなかったということではありませんが、確かに目新しいものでした。ブッシュ政権は、大胆にも、アメリカ〜これは彼等のいうところのアメリカですね〜は、完全かつ恒久的に世界を支配することを目指すとしたのです。つまり、それに対抗する可能性のあるものは阻止するということです。そして、必要とあれば軍事力に訴えてでも破壊する。軍事力は国力の一つの側面にすぎませんが、アメリカは圧倒的に優位な立場にあります。これは重大なことですね。しかし経済的にも他の側面でもそうとはいえません。世界はもっと複雑にできています。ただ軍事的にはアメリカは別格な存在です。そして軍事力を非常に危険な方法で極端に拡張しています。これは注目に値します。アメリカの意図するところは、この優位性を 世界支配に使うということなのです。9月に発表されたのはこういうことです。

政策を発表する場合〜真に受けてもらうためには〜「模範的行動」とも呼ばれる行動に出て本気であることを示さねばなりません。そして、イラクがそのテストケースとして選ばれたのです。後にニューヨークタイムズ紙が、戦略を試すための「実験用シャーレ−」と呼びました。

ところでイラクはとても理にかなったテストケースでした。戦略のテストケースになるためにはいくつもの条件を満たした国でなければなりません。まず完全に無防備であること。反撃力のある相手を攻撃するのでは意味がありません。ばかげています。ですから無防備な相手でなければいけません。当然イラクですね。あの地域では最も脆弱な国の一つですから。制裁で打ちのめされていました。イラクの軍事費はクウェートのだいたい3分の1。クウェートの人口はイラクの1割に過ぎません。その上、完全な監視下にありました。ポケットナイフ一つ隠し持てない状況でした。つまり完全に無防備だったのです。これが第一点ですね。

第2に、重要な国でなければならない。例えばリベリアへ介入したり制圧したりするのでは意味がありません。そうしたところでどうなります?イラクは非常に重要な国です。世界第2の石油埋蔵量を誇っていますから。ということは、世界最大のエネルギー源の基幹部をアメリカが支配することになります。これまでも長い間支配してきましたが、さらに支配が進むということですね。恐らく最終的にはイラクに米軍基地ができるでしょう。軍事基地を石油産油地帯へ転換する動きの一端ですね。そして、石油産油地帯真っ只中の本格的な軍事基地の先鞭となることでしょう。これは重要な点です。

第3点として、その国はともかく害悪、もしくは我々の存在を危うくする国として描くことができる国でなければなりません。それも可能です。ブッシュやブレアのスピーチのどれをとっても明らかです。「国民に毒ガス攻撃をしたり、2つの隣国へ侵攻し、大量破壊兵器を開発している人物を生かしておくことはできない。」などと言っています。これはすべて真実です。しかし、肝心な部分がいつも抜けています。彼がすべてやったことは確かですが、彼を助けたのは我々だった。自分達にはどうでもいいことだったからです。この「我々」というのは、今ホワイトハウスにいる連中です。

彼等のほとんどが、当時の(レーガン・ブッシュ両)政権から返り咲いた人たちです。最悪の残虐行為を行なっていたサダム・フセインを一貫して支持していたのは彼等でした。フセインが何をやっていたのかはっきり知っていても我関せずを通しました。イランとの戦争のためではありません。イランとの戦争が終わった後も続いていましたから。事実、クウェート侵攻時まで続きました。このことは隠さねばなりません。メディアが無作法にもそのことを持ち出さないのが頼みだったことはいうまでもありません。その上で、国民に対して毒ガスを使っていたのなら、彼はアメリカにとっては脅威であるとする。これは全く筋が通っていません。サダム・フセインを恐れていたのはアメリカだけです。彼は当然のこと世界中から軽蔑されてはいましたが、彼のことを恐れていたのはアメリカだけです。彼が侵略したクウェートもイランも彼を恐れてはいませんでした。嫌ってはいましたが恐れてはいませんでした。彼には力などないということがわかっていたのです。ところが、昨年9月、彼は(アメリカにとって脅威であると)されたのです。
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