彼女(黒沢あすか)によって表現される静謐なる狂気。中村さんがずっとこだわっていたのは間違いなくこの狂気だった。(きっとここだけは撮りたくて仕方がないんだろうなと、それはずっと思っていたことだった)その執着、執念は、本当に美しい映像となってこの鬱々とした作品に悪魔的な彩りを加え、この映画の最大の見せ場ともなっているのではないだろうか。 岩井俊二映画監督 救いのなさが、劇中に登場する剃刀のように冴えわたっているのに、一瞬はかない希望が提示される。それがどうしても美しく尊くて、映画を見終えて迷子になる。 寺尾紗穂音楽家・文筆家 壁の白さが殊更強調される密室映画、思い出したのは初期若松プロの作品群だ。たとえば『壁の中の秘事』や『胎児が密猟する時』。あの時代で描かれたのが若者たちの反乱だったとすれば、ここで描かれるのは母親の反乱だろうか。そして時折、出てくる外でのカット、どこにでもある風景。敢えて選びそうにない絵作りしにくい場所での撮影。新しい風景論映画。変化の時代に現れてくる映画なのか。そんなゾワゾワとした感覚がいつまでも残ってくる。 瀬々敬久映画監督 母親は怖い。子どものことをすべて知っていると思い込んで、それがたいてい当たっているからだ。でも、すべてを知っているわけではない。その『母親が決して認めない無知』に子どもは呑み込まれる。 内田樹神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長 黙り込む二人。不気味に鳴り響く生活音。隙間風の正体がわかった時、思わず息を止めてしまった。 武田砂鉄ライター 女性である事は、こんなにも切なく、こんなにも悲しくて、なおかつ美しい。黒沢あすかさんの芝居は、ますます輝き中村監督の作る世界に乱反射してる。この映画は、今年最初の輝かしき傑作である。 園子温映画監督 どこからこの女の人生は、この男の人生は、ずれてしまったのだろう。ずれたままこの2人はお互いを探りあい、探り合いながら絶対になっていく。私はこの二人を感じながらとても悲しいなと思った。二人が幸せになっていったらいいのにって思いながらみていたけれど、そうならなかった。そうならないのが、たった今の世界だと思う。 渡辺真起子女優 これは縦に見た剃刀のような映画である。まず見始めると、特殊詐欺や格差と分断、コロナ禍と社会的ヒステリーなど、さまざまな「社会派」的モチーフが見え隠れするので、これはそういった方面の何かを目指しているのかと予測する。16年前に劇映画から出発した中村真夕監督が果敢に発表してきた近年のドキュメンタリー映画の秀作は、まさに「社会派」的な観点で犀利な切れ味だが、明快率直で落ち着いて見られるものだった。それが横に見た剃刀だとするならば、本作はそういう見えるテーマに収束することなく、物騒な何ものかとしてこちらに迫ってくる、見えない縦の剃刀だ。そんな映画の不穏さは、『愛について、東京』『冷たい熱帯魚』と間欠泉のように危うい演技を噴出させてきた黒沢あすか扮するヒロインの素顔が露わになるに連れ、充満してくる。その「社会派」的なおさまりなど脱ぎ捨てて、きわどい何ものかに変容してゆくヒロイン=映画のスリリングさに、あなたも巻き込まれ、ぞんぶんに翻弄されるがよい。 樋口尚文映画評論家、映画監督 秘密が明らかになるにつれて、私は内臓に剃刀の刃を当てられたような得体の知れない不安に襲われた。そこに新垣隆氏の緊張感ある音楽と多面性の象徴のような鏡が効果的に使われている。母親とは‥なんて怖いんだろう。 佐伯日菜子女優
彼女(黒沢あすか)によって表現される静謐なる狂気。中村さんがずっとこだわっていたのは間違いなくこの狂気だった。(きっとここだけは撮りたくて仕方がないんだろうなと、それはずっと思っていたことだった)その執着、執念は、本当に美しい映像となってこの鬱々とした作品に悪魔的な彩りを加え、この映画の最大の見せ場ともなっているのではないだろうか。
岩井俊二映画監督
救いのなさが、劇中に登場する剃刀のように冴えわたっているのに、一瞬はかない希望が提示される。それがどうしても美しく尊くて、映画を見終えて迷子になる。
寺尾紗穂音楽家・文筆家
壁の白さが殊更強調される密室映画、思い出したのは初期若松プロの作品群だ。たとえば『壁の中の秘事』や『胎児が密猟する時』。あの時代で描かれたのが若者たちの反乱だったとすれば、ここで描かれるのは母親の反乱だろうか。そして時折、出てくる外でのカット、どこにでもある風景。敢えて選びそうにない絵作りしにくい場所での撮影。新しい風景論映画。変化の時代に現れてくる映画なのか。そんなゾワゾワとした感覚がいつまでも残ってくる。
瀬々敬久映画監督
母親は怖い。子どものことをすべて知っていると思い込んで、それがたいてい当たっているからだ。でも、すべてを知っているわけではない。その『母親が決して認めない無知』に子どもは呑み込まれる。
内田樹神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長
黙り込む二人。不気味に鳴り響く生活音。
隙間風の正体がわかった時、思わず息を止めてしまった。
武田砂鉄ライター
女性である事は、こんなにも切なく、こんなにも悲しくて、なおかつ美しい。黒沢あすかさんの芝居は、ますます輝き中村監督の作る世界に乱反射してる。この映画は、今年最初の輝かしき傑作である。
園子温映画監督
どこからこの女の人生は、この男の人生は、ずれてしまったのだろう。ずれたままこの2人はお互いを探りあい、探り合いながら絶対になっていく。
私はこの二人を感じながらとても悲しいなと思った。二人が幸せになっていったらいいのにって思いながらみていたけれど、そうならなかった。そうならないのが、たった今の世界だと思う。
渡辺真起子女優
これは縦に見た剃刀のような映画である。
まず見始めると、特殊詐欺や格差と分断、コロナ禍と社会的ヒステリーなど、さまざまな「社会派」的モチーフが見え隠れするので、これはそういった方面の何かを目指しているのかと予測する。16年前に劇映画から出発した中村真夕監督が果敢に発表してきた近年のドキュメンタリー映画の秀作は、まさに「社会派」的な観点で犀利な切れ味だが、明快率直で落ち着いて見られるものだった。
それが横に見た剃刀だとするならば、本作はそういう見えるテーマに収束することなく、物騒な何ものかとしてこちらに迫ってくる、見えない縦の剃刀だ。そんな映画の不穏さは、『愛について、東京』『冷たい熱帯魚』と間欠泉のように危うい演技を噴出させてきた黒沢あすか扮するヒロインの素顔が露わになるに連れ、充満してくる。その「社会派」的なおさまりなど脱ぎ捨てて、きわどい何ものかに変容してゆくヒロイン=映画のスリリングさに、あなたも巻き込まれ、ぞんぶんに翻弄されるがよい。
樋口尚文映画評論家、映画監督
秘密が明らかになるにつれて、私は内臓に剃刀の刃を当てられたような得体の知れない不安に襲われた。そこに新垣隆氏の緊張感ある音楽と多面性の象徴のような鏡が効果的に使われている。母親とは‥なんて怖いんだろう。
佐伯日菜子女優