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写真集「花子」
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監督のことば
佐藤 真
 食物を素材に一風変わった作品を作る女性がいると聞いて、はじめて今村花子の「たべものアート」と出会った。だが、畳の上に並べられた残飯の山を撮ったピンボケ気味の写真の山を見た時、これがはたして魅力的なアートと言い切れるのかと正直迷った。それでも、その瀬戸際の危うさと、母親である知左さんの柔らかな拘泥ぶりに魅せられてやがて今村家に足繁く通うようになった。すると、重度の障害者をかかえた日常の・・困難さをゆるやかに面白がる今村家の懐の深さがとても魅力的に見えてきた。言葉を決して発することのない花子の強度なこだわりも、アートと考えれば、優しく愛でうる対象となるのだ。ここに、世界の不幸を喜びに反転させうるアートの魔法がある。
 短い撮影期間にも関わらず、今村家の人々は、キャメラに対して予想をはるかに越えて胸襟を開いてくれた。家族四人、本当にバラバラに勝手に自分の好きなことをやっている今村家こそが最もお互いを思いやる家族であることが分かってきた。すると花子の傍若無人ぶりも限りなく愛らしく見えるのである。それでも世間で言うところの困苦を面白がる今村家の度量の広さは、疾風怒濤の嵐の果てに育まれたものである。そして、そうした今村家の歴史は、花子をめぐる日常をジッと見つめているだけで、自ずとにじみ出てくるものだったのである。
 かくして完成した映画「花子」は、今村家の日常を淡々と映し出すことだけに腐心することになった。アートを入り口にしたこの映画の出口には家族の日常だけが広がっていた。なぜならその日常の中に、あらゆる不幸を喜びに反転させる力が秘められているのだ。
 
佐藤 真プロフィール
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