『森に聴くListen to the Forest』初週舞台挨拶レポート

2026.04.07

2026年3月27日(金)@YEBISU GARDEN CINEMA
【登壇】山上徹二郎監督、今井友樹監督

映画の企画について

今井友樹監督(以下今井):山上さんとは『明日をへぐる』という作品で高知を一緒に訪ねて、今回の『森に聴く Listen to the Forest』に繋がる、僕にとってのスタートラインとなるドキュメンタリーを一緒にやらせてもらいました。実際、山上さんはそれよりももっと長い時間軸のスパンで考えていたみたいで、森に対する思いなどを聞きながらどうやって映像化していくのかを一緒に悩みながら作っていった作品です。

山上徹二郎監督(以下山上):本来、僕は映画の監督ではなくてプロデューサーの仕事を長く続けてきていまして、40年間ぐらい経つんですけれども80本ぐらいのいろんな劇映画やドキュメンタリー映画のプロデューサーをやってきました。今回の映画が初めての長編監督作品ということになります。

『明日をへぐる』で高知を訪ねた時に、今井さんと一緒に高知のいろんな森を回ったりしまして、その時に今井さんに森の映画を作りたいという声がけを僕はしたんじゃないかなという風に記憶してます。それがきっかけで、6年間ぐらい2人で、日本の森を取材して、今回作り上げたのが『森に聴く Listen to the Forest』という映画になります。

撮影地の森について

 

山上:最初に考えたのは、知床、屋久島、白神山地などの世界遺産になるような有名な森ではなくて、もっと僕たちの身近にある森をきちっと取材して、里山よりももうちょっと奥にある森に入りたいと思いました。本来の森の姿はもうどこにも残ってはいないんですけれども、日本独特の森の雰囲気を少しでも伝えることができるドキュメンタリーを作りたいということで、5か所の森を回って取材をしました。

日本は南北に長い列島なので、亜寒帯、冷温帯、暖温帯、亜熱帯という4つの気候帯があるわけですね。それで、その4つの気候帯のそれぞれの森を巡ってみようと考えました。1番北は、北海道の雄阿寒岳で、アイヌがずっと守ってきた北海道の森ということができると思います。今回、環境省の許可が下りて、初めて取材を許された森でしたので、この映画の中では本来の日本に残っていた森の形に最も近い姿だったんじゃないかという風に思います。
ただ、雄阿寒岳は火山の噴火で、おそらく1度木は全部なくなっていると思います。火山岩が積み重なったところに、土ではなく、薄い層があってそこに木が生えているので、映画の中でも出てきましたけれども、根から裏返ってしまう木が多くて、ものすごく歩きにくかったんですけれども、2日間で今井さんと仲間たちと一緒に入ることができました。

それから、宮城県鳴子の自生山の森ですけど、ここは1番古いもので、杉やブナなど500年から600年ぐらいの樹齢の木が混交林として残っていて、今も保護されている森ですね。ですから、ここも割に元々の森の姿が想像できるところじゃないかと思います。あとは、九州の日田、それから市房山の森ですね。それから沖縄の西表島のマングローブ林で、ここは世界遺産にも指定されています。

森の研究者との出会い

山上:これらの森をなぜ選んだのかということですけれども、森をつぶさに調べて選んだというよりは、それぞれの森に通っている研究者の人たちとの出会いがまずあって、その人たちの人間性だったり、考え方、その存在の面白さというんでしょうか、やっぱり森に関わってる人たちというのはすごく魅力的だし、面白いんですよね。みんな人間嫌なんですけども(笑)。その人たちのことをちゃんと映画の中で伝えることができれば、その人たちの説明を通して、森を知っていただくことができるんではないかということで、森を最初に選ぶというよりは、人を選んでですね、そこから森に触っていったというような映画の作り方をしました。
僕自身はどうしてもプロデューサーという立場で、いつもこう客観的に作品を見る、観客の目をある程度持つことができると思うんですけど、今回は自分が監督をやってしまったために本当に映画の完成度が本当に大丈夫なのかっていうのが今でも自信がなくてですね、本当にこうドキドキしてる感じですね。
そういう意味では今井さんが一緒に監督をしてくれなければ完成しなかったなというのはひしひしと感じてます。もうまさに親子ほど年齢が違うんですけれども、なんとか今井さんに遅れずに山の中を歩き回れたことだけが自慢です。ありがとうございました。

理屈抜きに巨木と向き合う経験

今井:この企画の依頼が山上さんからということもあって、最初は山上さんがどういうことを考えてるのかとか、森に対するどういうイメージがあるのかっていうのを共有するところから始まったんですね。

僕が最初に驚いたのは、前作の『明日をへぐる』の時ですけど、100年以上に渡って毎年秋に和紙の原料になる楮(こうぞ)の枝を人間が刈り取っていたがために幹がボコボコに太った楮の木があるんですよ。そこからまた春になると10本、20本と枝が2m近く伸びていくんですけど、それを手入れしてる人も高齢の方で、春になると木が弱っちゃって苔むしていくんですよね。その木を1本1本、おじいさんが歯ブラシみたいなものでゴシゴシと丁寧にコケを振り落とすっていうのが、春先の最初の仕事なんですけども、それを見て山上さんが「きっと木からすると、これは気持ちいいと思う」っていう風な話を聞いて、僕にはそういう感覚が最初はなかったんですね。

それと同じような感じで、理屈で考えてたらいけないなっていうことを今回も取材していく中でだんだん分かってきました。実際、樹齢500年以上と呼ばれてるような巨木に出会った時にどう向き合っていいのかっていうのが、本当にカメラ持ってても分からなくなることが毎回あったんですね。そういう時に敬意というか、そういうのものが勝手に感覚として生まれてくるし、映画の中に出てきた登場人物の方々が語る世界の中には、目に見えないような菌類の世界なんかも雄弁に語ってますけども、ああいう存在までも気づくようになっていきました。そこから僕はこの映画作りやっとできそうだなっていう風に思ってた次第です。

森と都会の繋がりを感じるラスト

今井:山上さんはプロデューサーとして客観的に現場を見てるっておっしゃってて、現場は比較的僕に任せてもらえるんですけども、監督だからなんか質問すると思って、ワイヤレスマイクを監督につけて、僕はモニターしながらあの取材対象の人の後ろをついてたんですね。左側は取材対象者のマイクで、右側が山上さんのマイクなんですけど、ずっとビニール袋のガシャガシャする音と、ぽとぽとって何かを入れる音が聞こえてきて、これは秋に自生山の森に入った時でしたけども、良い山栗が落ちてたっていうことでひたすら拾っていたんですね。
そういう野生的感覚がずっと山上さんは持ち続けてくれていたおかげで、この映画はできたなと思いますし、その感覚を僕も子供の頃はきっと持っていたと思うんですけど、だんだん都会生活の中で忘れてって、けれど今回また呼び覚まされたという感じです。実は森って都会生活をしてると全く断絶されて切れてるものに思えますが、感覚的には繋がってんじゃないかみたいなことまで考えることができました。なので、僕は映画のラストに出てくる都会の風景が自分の中ではしっくりきた部分かなと思います。一方で、そういう中で生活してる人間にとって森ってどう捉えたらいいんだろうかみたいな答えのない問いというか、自分たちが向き合っていかなきゃいけない大きな問題もそこにあるのかなという風に思っております。

故郷を流した球磨川の大水害

山上:映画の冒頭で出てきましたけれども、製作の最初の段階では入れるつもりはなかったんですけれども、2020年の7月4日に九州で線状降水帯の大水害が起きて、僕の生まれた村が流されてしまうんですね。1番深いところで9mぐらいまで水が来てますので、60戸あった家のうち53戸ぐらいが全壊の状態でした。うちの実家は幸いにして半壊の状態で残って、今はもう7世帯しか残っていないんです。その水害が起こったことも、この森の映画を作らなきゃいけないと思わせた大きな動機でした。
その後の経過で言いますと、水害が起きた8ヶ月後には、国土交通省の方から説明会があるということで、僕たち関係者が集められました。そこで、村を遊水地にするという計画が発表されました。村のほぼ2/3ぐらいの場所を8m掘り下げて、有水地にするということで、ちょうど全壊になっている家の部分が立ち退きということで、保証金も降りています。僕の実家は立ち退きの範囲からは外れたので一応残ってはいます。最初は8m掘ると聞いてたんですけども、その後、岩板層があって掘れないので、4mの深さで掘りますということになり、貯水量も半分に減るはずなんですけれども、計画はなんら変更にならないですね。
遊水地計画が発表されたのと同時に川辺川ダムも建設が再開されました。ですから、災害が起きると、すぐにどんどん手が打たれていきます。実際のところ、球磨川の本流ではなく、氾濫したのは全て支流なんです。50数名の方が亡くなってるんですけれども、支流が山崩れして、鉄砲水が出てということで、各支流から出てきてる水なんですよね。その各支流が氾濫した理由がやっぱり森がないことなんですね。ほとんどが杉とヒノキの人工林で、しかも手入れが行き届いておらず土が痩せてますので、材木ごと流されてます。それからもう1つは、野生の鹿が下草をほとんど食べ尽くしてるという状態で、もう地面がツルツルなんですね。そういった鹿の害というのも身近で大きな害に繋がってるなと思うんですけれども、そういうものが原因で球磨川の2020年の水害というのが発生してると言っても決して過言ではない。

けれども、机上でしか考えてない人たちが、川をなんとか人間の力で制御していこうという方向で考えていくんですね。一緒に共存していこうという考えではやっぱりないんですよね。ですから、この映画の中でも出てきましたけれども、森を大切にして、森を守っていく、それから森からいろんなものを学んでいくという姿勢でいることがとても大事だなという風に思いました。

観客への願い

山上:この映画を見ていただいて1番皆さんにお願いしたいのは、どこでも構わないので身近な森に行っていただいて、実際に森の中がいかに気持ちがいいかということを体験していただくだけで、いろんな考え方がそこから始まっていくという風に思っています。なので是非この映画を見て、面白いと思っていただけたら、森に行っていただけたら嬉しいなという風に思います。

2026年3月28日(土)@YEBISU GARDEN CINEMA
【登壇】清和研二(東北大学名誉教授/本作出演)、山本栄子(口琴奏者/本作出演)、山上徹二郎監督、今井友樹監督